イタリア通信030:再補強に走る下位チーム
(10.1998)
5節を終えたところで、トップから3ポイントの間にメジャーなビッグクラブ7つが顔を揃える混戦模様のスタートとなった今シーズンのセリエA。本番はこれから、というところだが、出足でつまずいたチームの間では、すでに修復に向けた再補強の動きが盛んになっている。
数年前までイタリアの移籍マーケットは、一旦シーズンが開幕したら、11月の「秋のマーケット」の期間中を除き、選手の国内移籍を認めないというシステムだった。しかし、就労の自由に関するEU法をプロサッカーに適用したボスマン裁定以来、国内移籍は1月末まで、海外のクラブとの間の移籍は事実上通年オープンとなり、クラブはシーズン中も自由に選手の放出・補強ができるようになった。
これによって、セリエA、Bの毎シーズンのチームづくり(補強)戦略は大きく変化している。従来は1チーム20人前後で1シーズンを戦うのが普通だったが、今ではどのクラブもシーズン開始当初は30人前後、あるいはそれ以上の選手を抱えるようになっているのだ。多くの選手を抱えることでチームが固まるまでの選択肢を増やし、見極めがついたところで、戦力外の選手を放出して帳尻を合わせる、というやり方である。TV放映権料などで、クラブの財政規模が拡大した(人件費に余裕が出た)こともこの傾向に拍車をかけている。
ただこれは、選手の側から見れば必ずしもいい状況とはいえない。より「格上」のクラブで力を試す機会が増えたことは事実だが、試合に出場するための競争は激しくなる一方、しかも、従来ならば1年間我慢して使ってもらえたものが、今はそれこそ最初の1-2ヶ月で結果を出すことを求められる。クラブの側も、なまじ補強が簡単になった分、すぐに選手をとっかえひっかえして状況を取り繕おうとする傾向が強まっているから、出足でつまずけば、性急に「戦力外」の烙印を押されてしまうのだ。
こうした形で移籍マーケットに名前が上る選手のほとんどは準レギュラークラス。しかしそれは現在の所属クラブでの話で、セリエAのビッグクラブから中堅・弱小クラブへ、中堅クラブからセリエBへ、という具合に「格下」のクラブへ移れば、十分にレギュラーを張れる実力は備えている。
とはいえ、ここで移籍を受け入れるかどうかは、選手にとっては大きな「賭け」でもある。もし「格下」に移籍してそこで活躍できなければ、選手としての評価と「価値」は大きく下がってしまうし、そこから再び這い上がるのは並大抵のことではなくなるからだ。ビッグクラブで一度はレギュラーの座をつかみながら、いつの間にか消えて行った選手は数多いし、最近では1シーズンに3-4チームを渡り歩く選手さえいる。一方、今は「戦力外」でも、いつチャンスが巡ってくるかは誰にもわからない。
今はラツィオで5億円近い年俸(税抜き)を取っているイタリア代表のエース、クリスチャン・ヴィエーリのケースは示唆的である。アタランタからユヴェントスに移籍した96-97シーズン、ヴィエーリは当初ベンチにも入れず、シーズン半ばにナポリからレンタル移籍のオファーを受けたが、それを頑に断わり続けた。マスコミは「伸び盛りの選手が、試合に出るよりも観客席の方を選ぶとは...。ヴィエーリはユーヴェの優勝ボーナス(ひとり1億円といわれた)に目が眩んだに違いない」と書き立てたが、シーズン後半に入ってボクシッチの故障でチャンスを掴むと大活躍。シーズンオフにはアトレティコ・マドリードから移籍金約28億円、年俸約3億2000万円というオファーを受けた。その後の活躍は御存じの通りである。
逆に、アンブロジーニ(ミラン)のように、ヴィチェンツァへのレンタル移籍で経験を積み、ミランに戻った今シーズンはレギュラー定着目前、というケースもある。いずれにせよ、この移籍自由化によって、選手のキャリアの浮き沈みが格段に激しくなったことは間違いない。
さて、早くも再補強に動き出したクラブの動向だが、目立つのはやはり下位チーム。50年ぶりにセリエA復帰を果たしたがここまでわずか1ポイントのサレルニターナは、昨シーズンのB優勝を支えたメンバーに見切りをつけ、チームの最構築に乗り出している。目玉は、U-21のリベロとして2年前の欧州選手権優勝に貢献した(9月のウェールズ戦ではA代表にも呼ばれた)期待の若手DF・フレージの獲得。インテルでは活躍が期待されながらチャンスを生かすことができず、3年ぶりに古巣に逆戻りする彼にとっては、ここが今後のキャリアを左右する最大の勝負どころになりそうだ。
やはり出足でつまずいたサンプドリアは、パルマからコートジヴォアール代表のDF・ラッシッシを獲得したほか、ユヴェントスのMF・ペッキアの移籍話もまとまりそう。ミハイロヴィッチ、ヴェロン、ボゴシアンと、主力を軒並み放出した穴は、オルテガひとりでは埋め切れなかったようである。
実のところ、移籍マーケットで最も活発に動いているのはペルージャである。すでに他のクラブがほぼチームづくりを終えた6月半ばになって、トリノとのプレーオフでやっとA昇格を決めたこともあり、プレシーズンのマーケットには完全に出遅れ。中田の獲得はヒットだったが、それ以外はストラーダ、ゼ・マリーアを除けばBの選手ばかりという体制で開幕を迎えざるを得なかった。そのため、インテルなどに準レギュラークラスの選手のレンタル移籍話を持ちかけてきたが、どのオファーもことごとく断わられ、最近も、ペッキア(ユーヴェ)、アメトラーノ(ジェノア)の獲得に失敗している。動けど動けど話がまとまらないという状態が続いているのだ。毎年、シーズン中に10数人もの選手を補強しては会長の気分ひとつで次々に使い捨てにして来たクラブへの移籍は、選手にとってあまりにもリスクが大きすぎるということだろう。要するに避けられているのだ。カスタニェール監督も大変である。
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