イタリア通信073:インテルの優位性
(09.1999)
前回は、セリエA、チャンピオンズ・リーグというふたつのコンペティションが、参加チームにどれだけの負担をもたらしているか、という話だった。今回は、これをセリエAの側から見てみることにしよう。
欧州カップの負担がセリエAを戦う上でどれだけのものかは、カレンダーを見れば一目瞭然である。欧州カップ(本選)開幕からセリエAが第14節を終えて冬休みに入るまでの14週間で、チャンピオンズ・リーグは8試合、UEFAカップは6試合を消化する。ここにコッパ・イタリアの2試合、さらに代表ウィーク2回が加わるから、欧州カップ参加チームが、週半ばに十分な休養とトレーニングの時間を確保できるのは、年末までにわずか2-4回しかないということになる。
前回も触れたように、シーズン序盤に休む間もなく試合と移動を繰り返していては、チームの基礎を固める上で不可欠な「試行錯誤」のための練習時間すら満足に取ることはできないし、ターンオーバーを繰り返せば繰り返すだけ、チームとしての仕上がりが遅れることも避けられない。
シェフチェンコ、セルジーニョをスタメンから外し、昨シーズンからのフォーメーションでボローニャを4-0と一蹴したミランが、この2人を起用した今週のヘルタ戦を、まったく攻撃の歯車が噛み合わないまま1-1で終えたことは、象徴的な事実だろう。
視点を変えれば、欧州カップに参加していないチームがセリエAを戦う上で得るアドヴァンテージは、これまでとは比較にならないほど大きい、ということもできる。
開幕直後に筆者のHPで触れたことだが、今シーズン、セリエAでは、スクデットを狙う「7大ビッグクラブ」とその他の中小クラブとの戦力的な「二極化」が大きく進展した。しかし、ここまで4試合を終えた時点では、それがそれほど顕著に表れているようには思えない。 判断するにはまだ時期尚早なのも事実だが、むしろ、パルマの深刻な不振、レッジーナの大健闘など、早くも波乱の兆しが見え隠れしている感もある。実際、内容的にも、ビッグクラブが中小クラブに押される試合が少なくない。ビッグクラブの「出足」が遅いのは例年のことだが、今シーズンはもしかすると、ビッグクラブの戦力的な優位が、欧州カップの負担によって相殺されることになるのかもしれない。
さて、スクデットを狙う7大ビッグクラブのうち唯一、欧州カップ不参加のメリットを享受できるのがインテルである。なにしろ、ライバルがハードスケジュールにあえぐ上記の14週間のほとんどを、セリエAのためだけに使うことができるのだ。週半ばに試合があるのは、12月第1、第3週(コッパ・イタリア1/8ファイナル)の2回のみ。代表ウィークに主力選手を取られることを勘定に入れても、10週は火曜から土曜までの5日間をフルに使える勘定になる。チームの基礎を固め、戦術を確立する上でも、またフィットネスを高いレベルに維持する上でも、この差は想像以上に大きい。監督がターンオーバーに頭を悩ませる必要もない。
事実、ここまでのカンピオナートを見る限り、インテルは最も仕上がりが早いチームのひとつである。ここに、それを示すいくつかのデータ(注参照)がある。
1試合平均のボール保有時間は約30分でセリエA18チーム中トップ。その一方で、1プレー当たりのボール保有時間は、セリエAで最も短い2秒56。
この2つのデータが示しているのは、攻撃している時間が長い上に、個々の局面では、ダイレクトや2タッチの速いパス回しによるスピードある攻撃の組み立てに成功しているということ。これはまさに、リッピ監督時代のユヴェントスが持っていたチーム・キャラクターである。インテルのサッカーには、早くもリッピの刻印が押されつつあるのだ。
もうひとつ無視できないのは、「ミスター900億リラ」、クリスチャン・ヴィエーリの貢献度の高さ。4試合で早くも5ゴールという得点力はもちろんだが、彼のプレーに関するデータを見ると、インテルのサッカーにとって、攻撃の基準点ともいえる重要な役割を果たしていることもわかる。
ヴィエーリの1試合平均のプレー数(ボールに触る回数)は50回。これはセンターフォワードとしては異例に多い数字である。例えば、ビアホフやF.インザーギはその半分強の27回、クレスポ、デルヴェッキオになると半分以下の20回しかボールに触っていない。
その結果ヴィエーリは、1試合平均のパス成功数も10と、他のCFとは段違いに多い(バティストゥータ、サラスは3、インザーギ、ビアホフは2)。インテル好調の裏には、ゴールエリアでラストパスを待ちかまえるだけでなく、やや浅めの位置でのポストプレーから、外に開いてのクロスまで、攻撃の組み立てに積極的に参加しつつ、常にシュートチャンスをうかがうヴィエーリのダイナミズムがあるのだ。
余談だが、毎年誰か1人はバロン・ドール(欧州最優秀選手)の有力候補を出さないと気が済まないイタリアマスコミは、早くもヴィエーリの名前を挙げて囃し立てている(ちなみに、本命はリバウド、対抗はベッカム)。
というわけで、プレシーズンの段階ではチームとしての仕上がりが最も遅く、「大改革」の成り行きが懸念されたインテルだが、予想以上に着実にチームの基礎を固めつつある。
何回か前のこの連載(99/2000シーズンに向けて(3))に「リッピ監督は何よりもまず時間との戦いに勝たなければならない」と書いたが、少なくとも彼がこの戦いに勝利を収めつつあることは間違いなさそうである。課題があるとすれば、ロナウドが復帰したときのチームバランスをどう取るかということだろうが、ヴィエーリ―サモラーノの2トップが十分に機能している以上、リッピにはじっくり腰を据えて解決を見出すだけの余裕がある。
こうしてみると、インテルにとって、11年ぶりのスクデットに手が届く環境は十分に整いつつあるといえるだろう。欧州カップ不参加のアドヴァンテージの大きさを考えれば、むしろ、これで優勝できなければいつ優勝するのだ、ということになるのかもしれないが…。
注)出典はミラノの全国紙「Corriere della Sera」(9/24付)。データ自体は、プロ・セスト(セリエC2)のユースコーチ、アドリアーノ・バッコーニが運営する、コンピュータによる詳細な試合分析システム「デジタルサッカー」に依っている。
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